経済と財政

【補足】
経済・財政を語るにあたり、インフレ・デフレの区別と貨幣というものの本質を理解することは大前提である。

インフレとは、『欲しがる人が多すぎて、生産が追い付かない(供給多寡)』状況であり、デフレとは『生産力がありすぎて、欲しがる人が少ない(需要不足)』状況である。

2023年現在の日本はデフレ(デフレギャップ-0.4%~-0.3%程度)である。
また、貨幣とはインフレ・デフレの調整弁の役割を果たす。

それでもピンと来ない方は、一度マクロ経済学を学習することをお勧めする。

【よくある指摘】 日銀の国債を直接引き受けること(財政ファイナンス)は法律で禁止されている

【反論】 財政ファイナンスは厳密には禁止されていない

まず、財政ファイナンスという言葉自体がプロパガンダ用語であることを認識すべきである。

日銀の国債「直接」引受(財政ファイナンス)は、財政法第五条により、「特別な事由があり、国会の議決を経ない限り不可」となっており、厳密には禁止されていない。

そもそも、財政ファイナンスの禁止とは、その国の政府が無尽蔵に紙幣を発行して極端なインフレを招かないための措置であり、 インフレ率を見ながら紙幣を発行すること自体は何ら問題にならない。

そもそも、財政ファイナンスではない、原則に乗っ取った中央銀行による国債買い取りも、間に銀行が入っているだけで、やっていることは「日本銀行⇒日本政府」という資金創出であり、実質的に財政ファイナンスである。

日本銀行が市中銀行から国債を買う「間接引受」は、通常の買いオペレーションである。

直接引受と「間接」引受とでは、経済的効果に変わりはない。財政法第五条が気になるならば、市中銀行を経由すればそれで話は解決する。

【引用】
財政法第五条

すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。

【よくある反応】 「日銀、国債直接引き受けへ」という報道が出た瞬間に円が暴落する

【反論】 海外でも事例はあるが、通貨の暴落は起きていない

この考え方は貨幣のプール論(貨幣を金貨や銀貨のように、それ自体に価値がある「モノ」であると認識する貨幣観)に基づいており、金本位制の考え方である。すなわち、50年遅れているといえる。

そもそも、財政ファイナンスは事実上、海外でも行われているが、通貨の暴落は起きていない。

中央銀行による政府債務の大量買い入れの事例(イングランド銀行と連邦準備制度理事会の例)。

年代 イングランド銀行 連邦準備制度理事会
1947-19801949年:通貨切り下げ後の安定化
1952–53年:石炭産業国有化
1958年/1970年:国庫再融資プログラムの失敗の予防するための国債買い切り
1980-2008~1988年:オーバーナイトファイナンスFRBによるプライマリーオークションでの再融資保証
2008年以降金融危機:銀行救済の財政支援と量的緩和
パンデミック:量的緩和
金融危機:大規模資産買い入れプログラム
パンデミック:市場機能買付

財政ファイナンスが少なくとも「非常事態の措置」として認められるのであれば、震災復興やパンデミックなどの対応で中央銀行が資金を民間に供給することは可能である。

【引用】
日経新聞(2020年4月9日)

主要国の中央銀行が新型コロナウイルスに伴う経済危機克服に向け、異例の措置に相次いで踏み切った。米連邦準備理事会(FRB)は9日、一般企業への融資など新型コロナに対処する2兆3000億ドル(約250兆円)の緊急資金供給策を決めた。英国のイングランド銀行(中央銀行)も9日、英政府が一時的に資金不足になった場合に短期の資金を融通する仕組みを拡充すると発表した。企業や政府にマネーを供給する中銀の政策対応は、未踏の領域に入りつつある。
FRBの緊急資金供給策のうち、一般企業向けは民間銀行を通じて6000億ドルを提供し、1年間は無利子とする。7500億ドルの資金枠を設けて大企業などから社債の買い取りも開始する。資金繰り難の企業に中銀がマネーを供給するのは極めて異例だ。

【よくある反応】 財政ファイナンスが「禁じ手」とされている以上、無暗にはできない

【反論】 財政ファイナンスを「禁じ手」とする考え方を見直すべき

サービス業の発達した国では簡単にはハイパーインフレにならないのが実情であり、財政ファイナンスを殊更タブー視する風潮に疑問を呈する声もある。

日本以外の国々の中央銀行は国内の国債等の買い取りを増やし、マネタリーベース(その国の中央銀行・政府が発行した通貨)を二倍、三倍に増やしている。

アメリカのFRBやユーロのECBは、リーマンショック後にマネタリーベースを三倍超、二倍超に増やしたが。両国・地域のインフレ率は2%台であった。

サービス業の発達した国では簡単にはハイパーインフレにならない。

サービス業が発達すると、お金の使い道は格段に広がる(美容・健康、旅行など)ことから、例えば、第一次世界大戦後のドイツのようにリンゴ一個買うのに馬車いっぱいの札束を用意するようなハイパーインフレにはなりにくい。

参議院の調査室の調査によると、毎月1人10万円国民に給付しても、1年目で1.215%、2年目で1.436%、3年目で1.809%、4年目で1.751%しかインフレ率は上がらない。

毎月1人20万なら1年目で1.495%、2年目で2.255%、3年目で2.951%、4年目で2.741%である。
(こんなことをすれば、誰も働かなくなるので、現実的ではないが、相応の減税をしてもいい)

日本では、これだけの「財政負担」をして、ようやく日銀の目標であるインフレ率2.0%を超えるのである。

【よくある反応】 日銀はYCC(イールドカーブコントロール)し、国債の買い入れ量を減少させており無限にはできない

【反論】 YCC(イールドカーブコントロール)の理由はデフレだから

上記の通り、中央銀行が国債の買い入れ量を減少させなくてはならない理由はない。

日本銀行がYCC(イールドカーブコントロール)をしているのは国債の買い入れ量を減少させるためではなく、単純にデフレが原因である。

【よくある反応】 財政ファイナンスで中央銀行が国債を無尽蔵に買い取るなら税金などいらない

【反論】 極論をいえば税金はいらない

上記の通り、コントロールすべきはインフレ率であり、「国の借金」ではない。国の借金は端的に言ってしまえば、 歳出が歳入を上回りマネーが増えた累計でしかない。

市中にマネーが増え続ければ理論上はインフレに向かう。しかし、先進国(とりわけ日本)でインフレが起きにくいのは上記のとおりである。 インフレにさえならなければ、理論上、税金は不要である。

国債発行(通貨発行にすぎない)を「国の借金」と強弁し、不要な増税を施してデフレにし、失われた30年をもたらしているのが 今の日本政府である。