満州事変とリットン調査団

【よくある指摘】 リットン調査団は満州を中華民国の領土と認めた

【反論】 リットン調査団は厳密には満州を自治区とする提案をした

リットン調査団は、柳条湖事件を日本軍の自衛行動とは認めていないが、日本による満州の治安及び、発展への貢献を認め、「満州は特殊な地域であり、歴史的背景を知らなければ意見表明ができず、満州事変は他国による侵略という類のものではない」と認識している。

さらに、リットン調査団は、中華民国はもともと満州に無関心であり、張作霖が独断で満州の領有を主張していたことも認めている。

張作霖は協定を無視して満州鉄道に併行線を建設し、日本の権益に損害を与えていたが、 このような不法行為も認めており、「現状認識」は日本に好意的と呼べるものであった。

リットン報告書では、国際連盟の指導下で満州を中華民国の自治政府にしようという和解案を提示している。

一方、日本は満州に直接関与しなければ、一時的に治安が回復しても、軍閥によって、再び日本の権益が不法に脅かされることが分かっており、 あくまで満州国の承認を絶対条件としていた。

満州を明確に中華民国の支配下におくべきだと主張したのは、リットン調査団ではなく、調査後の国際連盟の決議である。

しかし、その決議は満州の実情を踏まえない一方的なものであったことは、パル判事が指摘している。

【引用】
『共同研究 パル判決書(上)』

日本が国際連盟の勧告に従わなかった事実は、大いに利用されている。 国際連盟は、他のどのようなことを討議するよりも前にまず日本軍が撤収することを強要したのである。 一部の人たちが考えているように、国際連盟のこの態度は、この事件の事情に鑑みて、正当なものとはみなし得ないかもしれないのである。 日本軍の立場は、国境を侵した軍隊の立場とは異なっていた。「まったく安全な自国の国境線内に軍隊を撤収させることと、容易に包囲されうる外国領土内を走る鉄道沿線へ軍隊を撤収させることは、まったく事情が異なるのである」。 この命令は連盟によって発せられた独断的なものである。(中略)もし日本がこの威嚇(満州を勧告通り中華民国へ明け渡す)に屈服し、その軍隊を撤収した暁においては、満州は以前よりもはるかに恐ろしい無政府状態および悪政に委ねられたことであろうと思う。連盟自身は満州に立ち入って、その秩序を回復しうる手段をもっていなかったのである。

【引用】
『リットン報告書』

問題は極度に複雑だから、いっさいの事実とその歴史的背景について十分な知識をもったものだけがこの問題に対して決定的な意見を表明する資格があるというべきだ。この紛争は、一国が国際連盟規約の提供する調停の機会をあらかじめ十分に利用し尽くさずに、他の一国に宣戦を布告したといった性質の事件ではない。また一国の国境が隣接国の武装軍隊によって侵略されたといったような簡単な事件でもない。なぜなら満洲においては、世界の他の地域に類例を見ないような多くの特殊事情があるからだ

【よくある反応】 自治区であろうと、リットン調査団は満州を中華民国の領土と認めたことに変わりない

【反論】 リットン調査団の判断は中立的な結論とはいえない

リットン調査団の「満州は中華民国に帰属する」という見解の根拠は、日本による開拓や治安維持によって 多数の中国人が満州へ流入しており、「移民が多いから満州は中華民国である」とする正当性を欠いた見解であった。

つまり、日本の力で満州を発展させ、そのため移民が増え、さらに張作霖・張学良による圧政から解放し、満州を独立させようとしたら、 リットン調査団は「中華民国からの移民が多いから、満州は中華民国のものである」という、筋の通らない見解を出したのである。

リットン調査団の見解は、例えば、多数のアメリカ人が日本へ移民し、人口の過半数を占めたら、日本はアメリカになるという理屈である。

満州がまったく無主の地であれば、そういう見解も出せるであろうが、そもそも清国は満州族の国であり、中華民国は満州以西を取り戻したに過ぎない。

また、満州には皇帝がおり、このことをリットン調査団は無視している(歴史を検証する上でこの点はかなり重要である)。

そして、中華民国に満州の主権を与え、自治区とするリットン調査団の判断に一役買ったのは、日本の「東京政治経済研究所」である。

「東京政治経済研究所」は、蠟山政道(ろうやま まさみち)、牛場友彦、松本重治らが設立した共産主義組織である。

満州は独立後、近代化により毎年100万人が移民する国家となり、ある程度の成功を収めていたが、「満州の発展は許せない」というのが、世界の共産主義者たちの共通認識であった。

「東京政治経済研究所」の立場はソ連、中国共産党の擁護であり、満州国の独立は断じて認めないというもの。

このような共産主義組織が、リットン調査団の判断に影響を与えている点に留意する必要がある。

リットン報告書の時点で、共産主義的イデオロギー、反日的な政治的思惑が関わっており、完全に正当性を欠いている。まして中立的な国際的見解とはいえない。

【よくある指摘】 日本以外、満州国を承認していない

【反論】 21か国が満州国を承認している

リットン報告書では、国際連盟の指導下で満州を中華民国の自治政府にしようという和解案を提示しており、 行政長官は外国人顧問を任命し、その大部分を日本人とすべきとしていた。

しかし、リットン報告書を踏まえた国際連盟の決議では、自治区ではなく満州を明確に中華民国の支配下に置くよう主張を変えている。

国際連盟の加盟国の中には、中国大陸への利権を求め、満州の存在を良く思わない勢力も存在していたことにも留意する必要がある。

満州事変直後の国際連盟の決議においては、満州国を承認する国は日本のみであったが、 当時の独立国の1/3に当たる21か国が満州国を承認している。

ドイツ、イタリアやスペイン、タイなど、当然ながら枢軸国や同盟国が多かったが、ポーランド、ハンガリー、スロバキア、ルーマニア、ブルガリア、フィンランド、クロアチア、 デンマークといった北欧・東欧諸国も承認している。

イギリス、フランスも「自分達の権益が確保されるなら」という条件で承認する動きがあり、満州を承認する動きがあったのは枢軸国だけではないことに注目する必要がある。

このことからも、国際連盟における「満州国を認めない」とする動きは、中国大陸への権益を求める各国の思惑が少なからず影響しているといえる。

また、少なくとも、満州が「日本しか承認しなかった傀儡国家」ではないことは明らかである。