経済・財政を語るにあたり、インフレ・デフレの区別と貨幣というものの本質を理解することは大前提である。
インフレとは、『欲しがる人が多すぎて、生産が追い付かない(供給多寡)』状況であり、デフレとは『生産力がありすぎて、欲しがる人が少ない(需要不足)』状況である。
2023年現在の日本はデフレ(デフレギャップ-0.4%~-0.3%程度)である。
また、貨幣とはインフレ・デフレの調整弁の役割を果たす。
それでもピンと来ない方は、一度マクロ経済学を学習することをお勧めする。
【よくある指摘】 銀行の資金(預金)にも限界があるので国債を買い続けることはできない
【反論】 銀行の資金(預金)が枯渇している状態は、国債を発行しなくても良い状況である
日本はデフレであるため、民間への貸出先がない。そのため銀行預金は国債へ流れる。
政府は国債から資金を調達し、民間へ投資する(厳密には公務員への給料にもなる)。民間に流れた資金は銀行預金へ戻る。
銀行預金に戻った資金で国債が買われることを繰り返すだけである。
銀行に預金が無い状態とは、個人消費だけでもGDPが1100兆円を超える(2022年の個人金融資産の「現金・預金」は1100兆円)状況である。
これは(すべての預金を使うのは極端にせよ)、景気が回復し、消費が活性化した場合に起こる現象である。
銀行の預金が民間に流れ、法人税や所得税によってプライマリーバランスが黒字化すれば国債の発行は不要となるし、銀行も民間に貸し出せば儲かるため、国債を買おうとは思わない。
そもそも、「プライマリーバランス」の考え方が海外と日本では異なる。
海外の考え方による日本の「プライマリーバランス」は現時点で±0という試算もある。
よって、デフレ期の日本で優先すべき経済政策は、増税による税収増ではなく、景気回復である。
尚、銀行が国債を買わくなった場合、他の投資家が国債を買うであろうことは、容易に想像がつく。
【よくある反応】 円安(2023年に1ドル150円前後で推移)は国債発行が原因
【反論】 円安の原因は金利差であり、国債発行が足りないから
まず、2023年の円安の原因が金利差であることはどの経済学者も指摘していることなので割愛する。
金利差については、日本政府がデフレ下に増税するような政策を取り、
金利を上げる経済状況(ディマンドプルインフレ)にしないことが原因である。
つまり、
【よくある反応】 国債発行によって購買力平価が下がっている
【反論】 購買力平価の下落は国債が原因ではない
購買力平価(PPP)は、ある国の財やサービスが日本円ならいくらになるかを基に為替レートが決定するという仮説に過ぎず、国債発行とは何ら関係ない。
日本の購買力平価は相対的に下がってはいるが、購買力平価は、サービス業の多い先進国が低く、新興国が高く出やすくなる傾向がある。(輸入品が安く買えても、国内製造の品物やサービスが高ければ、購買力が下がるため)
また外国の指標も曖昧(例えば、2007年まで中国の購買力平価レートGDPを計算する際に使用されていた物価水準は1986年のものであった)であり、そもそも対外比較のための経済指標として用いるのに適切とは言い難い。
野村證券 証券用語解説集
購買力平価とは
ある国の通貨建ての資金の購買力が、他の国でも等しい水準となるように、為替レートが決定されるという考え方。
あるモノが日本で120円、米国で1ドルである場合、1ドル120円であれば、120円(1ドル)は日本でも米国でも、それを1単位として購買する力を持っており、購買力平価が成立していることになる。
ポール・クルーグマン(経済学者)
購買力平価はどのような形に直しても現実のデータをうまく説明しない。とりわけ、各国の物価水準変化は為替レートの動向について我々にはほとんど何も教えてくれないことがしばしばある。
内閣府、OECD等
PPPは日本が相対的に高い非貿易財の価格に引きずられ、我が国産業の競争力を過小評価するものとなるおそれがある。
PPPは、主に物価水準で生活実感を比較するために作られた人工的な指数であり、作成の方法により様々なPPPが存在する。
新世紀のビッグブラザーへ(三橋貴明)
経済産業省の記載の通り、PPPは人工的に作られた指数で、しかも困ったことに作成方法により出される数値が変わってしまいます。自国に都合のいいように、物価水準や計算手法を決めることができるのです。